情勢と課題 海上保安庁

不審船対策

不審船対策の歴史
海上保安庁では、1985年(昭和60年)4月の日向灘沖不審船事件が発生して以降、不審船対策に本腰を入れるようになりました。日向灘沖不審船事件では、20隻以上の巡視船艇が2日間に渡って追跡するも、不審船の速さに追いつけずに取り逃がしたことから、その教訓として、時速35ノットが出せ、防弾ガラスを装備した「みはし」型巡視船(現「しんざん」型巡視船)が4隻建造され、昭和63年から順次就役しました。その改良型の「らいざん」型巡視船も建造され、現在も改良を続けながら建造されています。

1999年(平成11年)3月に能登半島沖不審船事件が発生し、またもや高速で逃走する不審船を取り逃がしたことから、今度は時速40ノット以上を出せ、防弾機能を強化し、遠隔操作式20ミリ多銃身機銃を装備した高速特殊警備船「つるぎ」型巡視船が3隻建造され、能登半島周辺に配備されました。また時速30ノット以上出せ、遠隔操作式30ミリ機銃を装備(のちに射撃統制装置付40ミリ機銃に変更して就役)した大型巡視船「あそ」の建造も決定しました。そのほか、「しんざん」型巡視船、「らいざん」型巡視船も順次防弾機能を強化し、機銃も遠隔操作式20ミリ多銃身機銃に換装されました。

2001年(平成13年)12月に奄美大島沖不審船(工作船)事件が発生しました。今までの不審船事件と違い、不審船の機関が故障しており、速度がが遅かったため、「あまみ」「きりしま」「いなさ」「みずき」の4隻の巡視船が不審船に追いつきました。その後、海面・上空、船体への威嚇射撃をへて捕捉作戦を実施し、激しい銃撃戦となりました。「きりしま」「いなさ」(「みずき」は弾薬補給のため捕捉作戦には参加せず)は防弾機能を強化していたため被害は軽微でした。しかし「あまみ」は防弾機能を強化していなかったため(ガラスも防弾ガラスではなく強化ガラス)、負傷者3名を出し、船体にも大きな被害が出ました。その後の正当防衛射撃の際は、「いなさ」に搭載されていた遠隔操作式20ミリ多銃身機銃が大きな威力を発揮しました。その後不審船は自沈し、事件は収束しました。この事件を契機に、警備救難業務に従事する全ての船艇の防弾機能を強化することが決定し、「あまみ」型にも遠隔操作式20ミリ多銃身機銃が装備されました。一部ヘリコプターも防弾機能が強化されました。

この事件を契機にさらなる不審船対策が強化が叫ばれ、新たな巡視船の建造が行われることになりました。

不審船事件の一覧は、特集 不審船事件へ

現在の不審船対策
高速機動船隊
海上保安庁では奄美大島沖不審船(工作船)事件を契機に新たに、時速30ノット以上を出せ、射撃統制装置付40ミリ機銃やヘリ甲板を装備した「ひだ」型巡視船3隻、射撃統制装置付40ミリ機銃装備に設計変更した「あそ」型巡視船2隻、「つるぎ」型高速特殊警備船3隻を追加建造することを決定しました。これらの巡視船はすべてウオータジェット推進で、高速で機敏な行動をとることができます。不審船を発見した際には「ひだ」型1隻を指揮船及び特殊警備隊のプラットホームに、あそ型1隻、つるぎ型2隻からなる高速機動船隊を編成して対処することにしました。平成20年に全ての巡視船が就役し、日本海側北部から東シナ海にかけて高速機動船隊を3隊編成できるようになりました。また近年量産されている「とから」型中型巡視船(PM)も時速30ノット以上が出せ、遠隔操作式220ミリ多銃身機銃を装備しているため、ある程度の不審船対処能力を備えています。

巡視船「でわ」 高速特殊警備船「つるぎ」
「あそ」型巡視船「でわ」 高速特殊警備船「つるぎ」
射撃統制装置付40ミリ機銃 遠隔操作式20ミリ多銃身機銃
射撃統制装置付40ミリ機銃 遠隔操作式20ミリ多銃身機銃
不審船への対処の仕方
不審船が発見されると、各地から巡視船が出港し、高速機動船隊を編成して追跡に当たります。この追尾には、特殊警備隊(SST)及び特殊警備隊を運ぶヘリ及び航空機が加わります。不審船に追いついた場合には、以下のような対処がとられると推測されます。

・不審船が搭載していると思われる14.5ミリ対空機関砲(射程約2キロ)や携行式簡易対空ミサイル(射程約2キロ)、対戦車ロケット(射程約700メートル)などの武器の射程外から追尾する。続く行動も射程外から行われる。

・無線などにより不審船に停船するように警告を行う。

・逃走を続ける場合は、「つるぎ」型巡視船の遠隔操作式20ミリ多銃身機関砲による海面への威嚇射撃を行う。

・さらに逃走を続ける場合は、「ひだ」型巡視船、「あそ」型巡視船の射撃統制装置付き40ミリ機関砲による船体への威嚇射撃を行う。

・それでも停船しない場合は、不審船の武器の射程内に入ることを覚悟して、ヘリコプターからの降下や高速特殊警備船による強行接舷によって特殊警備隊を移乗させ、不審船を制圧する。

・これらの最中に不審船が攻撃してきた場合は、不審船に対して直ちに正当防衛射撃を行う。あそ型、ひだ型は40ミリ機関砲をもって不審船の搭載する武器の射程外から、高速特殊警備船は、ある程度の被弾を覚悟して、不審船に接近して20ミリ機関砲をもって正当防衛射撃を行う。正当防衛射撃は不審船が攻撃を停止するまで行われる。

・不審船の攻撃が止んだあとは、不審船の自沈や乗組員の自爆を警戒しながら、不審船に特殊警備隊を移乗させ、制圧する。

最終的には、不審船を捕捉し、国籍や目的などを判明させることが目標となりますが、実際にはこのように順調にいくとは限らず、航空機や巡視船が被弾したり、途中で不審船が自沈してしまうことなども考えられます。しかしながら不審船対処できる能力を持つことと、不審船には厳正に対処するという姿勢を見せることも必要となります・

Related posts

特集 海上保安庁特殊警備隊(SST)

jun

歴代船型一覧 交通業務用船

jun

海上保安庁の船

jun